東京都 U様/ECCO TRACK 紳士カジュアルシューズ|加水分解 Vibram1136
【修理事例紹介】東京都 U様/ECCO TRACK 紳士カジュアルシューズ|加水分解したソールを本格再生
今回は、東京都にお住まいのU様よりご依頼いただいた、ECCO(エコー)の定番シリーズ「TRACK(トラック)」の修理事例をご紹介します。
「ECCO TRACK」は、エコー独自の快適な履き心地と実用性を備えた、アウトドアテイストのカジュアルシューズとして長年人気を集めているモデルです。頑丈かつ柔軟性のあるソールと、ナチュラルレザーによるアッパー構造が特徴で、通勤・アウトドア問わず幅広く活用されている靴です。
しかしこのたびご依頼いただいた一足は、経年劣化による“加水分解”が進行し、ソール全体が割れや剥がれといった深刻なダメージを抱えていました。
■ご依頼のきっかけ:「底が割れてしまった」「まだ履きたい」
U様から当店へのご相談内容は以下のようなものでした。
「ソールがバキバキに割れてしまい、つま先の方まで大きなヒビが入ってしまった。気に入って履いていた靴なので、どうにか修理してまた履けるようにしたい」
現物を拝見すると、まさに「加水分解」の典型的な症状が出ており、ソールのEVA素材が劣化してボロボロに崩れていました。特につま先からサイドにかけてのひび割れが進行しており、オリジナルソールのまま再使用するのは不可能な状態でした。
このモデルに限らず、EVAやPUといった発泡素材は経年により水分を取り込み、数年〜十数年で加水分解を起こすリスクがあります。外見に大きな損傷がないようでも、底材内部から劣化が進んでいることがあるため注意が必要です。
■修理の方針:オリジナルに近づけつつ、実用性と強度を重視
今回の修理では、ソール全体をオールソール交換する必要がありました。ただし、ECCOのオリジナルソールは一体型かつ専用設計のため、メーカー純正の部材による交換は困難です。
そこで当店では以下の方針で修理を進めることにしました。
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劣化したソール・ミッドソールのすべてを撤去
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新たにEVAスポンジ製のミッドソールを作成・縫い付け
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アウトソールにはVibram社製の「1136」ユニットソールを使用
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ソールとアッパーの継ぎ目は、本革パーツを縫い付けて補強&意匠処理
この方針により、オリジナルの履き心地に近づけながらも、耐久性・グリップ力・修理性を大幅に向上させることが可能になります。
■作業工程の詳細紹介
1. 旧ソールの除去と下処理
まずは劣化してしまった元のソールを慎重に剥がします。エコーの靴は多くが一体構造で接着されており、強固な糊付けがされているため、焦らず丁寧に削り取りながら処理していきます。
アッパー側には経年の糊跡や、ソールの崩れによる汚れが付着していたため、これも可能な限りクリーニングし、後の接着や縫製に支障のないよう整えます。
2. ミッドソールの再構築
オリジナルのミッドソールは劣化していたためすべて除去し、新たにEVAスポンジ材を切り出して成型。これをアッパー底面にマッケイ縫いでしっかり縫い付けます。柔軟性がありながらも程よく硬さのあるEVAは、履き心地と衝撃吸収性の両立に優れており、登山靴などにも使われる素材です。
3. Vibram1136ソールの装着
アウトソールには、Vibram(ビブラム)1136を採用。このモデルは深めのブロックパターンを備えたタフなソールで、アウトドアや雨天時でもしっかりグリップが利くのが特徴です。やや“ごつめ”の見た目になりますが、ソールとしての性能は申し分ありません。
成型したミッドソールの上に、このVibram1136をしっかりと接着し、端部は丁寧に削り落として一体感を出します。
4. 側面の革巻き仕上げ(意匠&補強)
ソールの交換にあたり、元のソール側面との境目が目立ってしまう場合があります。そこで今回の修理では、本革パーツを側面に縫い付ける「オパンケ縫い」風の処理を施し、視覚的な違和感をカバーしながら、接合部の補強も兼ねました。
これにより、外見上の自然さが保たれるだけでなく、今後の耐久性も格段に向上しています。
■修理後の仕上がり:タフな印象へアップグレード
完成後の靴は、オリジナルよりやや武骨な印象となりましたが、全体的なバランスは良好です。Vibram1136の力強いアウトソールが、むしろカジュアルなECCO TRACKにマッチしており、よりアウトドアテイストが強まったともいえます。
また、底面の構造自体が見直されたことにより、クッション性・耐摩耗性・防滑性が大幅に向上。雨の日や悪路でも安定感のある歩行が可能です。
■お客様のご感想
修理完了後、U様からは以下のようなお声をいただきました。
「新しくなったソールは以前よりもしっかりしていて、安心感があります。見た目も自然で、修理とは思えない仕上がりです。これからも長く履き続けたいと思います」
当店としても、靴本体の状態が良好だったこともあり、しっかりとした再生ができたことを嬉しく思います。
■あとがき|「もう履けない」とあきらめる前に
加水分解によるソールの崩壊は、多くの靴に起こりうる経年劣化ですが、アッパーがしっかりしていれば「再生」することは可能です。
今回のように、専用ソールが手に入らないモデルであっても、素材選定と技術力によって機能的にも美観的にも新たな価値を加えてよみがえらせることができます。
ECCO、Clarks、Mephisto、Timberlandなど、カジュアル系・コンフォート系の靴は、構造に独特の癖があるため修理を断られることも多いですが、当店ではこれまで数多くの事例に対応してまいりました。
「お気に入りの靴だけど、もう無理かも…」とお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。
いずみ靴店
所在地:岡山県倉敷市
全国対応・郵送修理歓迎
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